注目選手はもちろん久保
ボンジョールノ、諸君。
今朝も早くからコパ・アメリカのCグループ第3節が行われ、日本が決勝トーナメント進出を懸けてエクアドルと戦った。両者ともに勝てばグループステージ突破という一戦で、私は不本意ながら前回と同様に「my友人にはなりたくないランキング」で1位をひた走る編集者のA氏にレクチャーを施しながら観戦することになってしまった。それを以下に再録する。
A氏(以下――)ということで、本日もよろしくお願いします。
名将「うむ」
――エクアドル戦の見どころや注目選手などを?
名将「この日本のスカッドを眺めた上で誰が注目かを聞くなどとは、愚問にも程がある」
――と言いますと
名将「ウルグアイ戦からの唯一の入れ替えであるフッボル界の井上尚弥ことモンスター、レアル久保建英に決まっているだろう。これくらいはそこらの魚屋でも即答するぞ」
――では、試合展開の方は?
名将「あれこれ言わんと静かに見ましょうや!(阪神OBの川藤氏?) ただ…」
――ただ?
名将「どうも中島がゴールを決めるような気がしてならない。私のセブン・オブ・センシズがそう叫んでいるのだ」
――試合開始。例によって岡崎が相手にしつこくチェイス
名将「もはや犬だな。だが、それがいい」
――エクアドルのプレスも激しい
名将「彼らも勝てばいいんだから当然必死だろう。とにかく前半は飛ばして、先制点を挙げて若い日本のメンタルを揺さぶろうという作戦かもしれない」
――柴崎の縦パスを受けた三好が中央からシュートを放つが威力なくGK正面へ
名将「シュートというか、これはGKへ向けた優しいパスだったな。しかし今日も柴崎の足の感覚は良さそうに見える」
中島のゴールは予言通り?
――15分に岡崎の飛び出しから相手GKがクリア。それを収めた中島が冷静にゴール右隅に蹴りこむ
名将「ホーラ、ナカジマラロー! ホーラ! ホーラ! また予言が当たったよ!」
――VARのようですが
名将「はにゃ? またあの忌まわしいVARか。一体このゴールに何の不満があるんだ。確かにバーには当たったが、その後は完全にゴール・オブ・マウスに吸い込まれていただろうに」
――その前の岡崎の位置ですね
名将「……だろうね。こりゃオフサイドだな。間違いない」
――VARの結果、完全なオンサイドでゴールと認定
名将「い、いや、そんなはずはない。あれは列記としたオフサイドだ! 今すぐVAR・オブ・VARを設置しろ!」
――どっちの味方なんですか
名将「ゲームから目を離すんじゃない!」
不安定な守備から同点を許す
――23分、ゴール近くで川島のパスがカットされ、最後はE・バレンシアに至近距離からシュートを打たれるも川島がセーブ
名将「これが我々の知るいつもの喜劇役者・エージ・カワシマだ。とんだ自作自演だったが、まさかあのシチュエーションからこんな決定機が生まれようとは、主審も慌ててゴール前に引き返してきたのには笑ったな」
――続けざまにペナルティーエリア(PA)手前で冨安のパスが奪われピンチを招くが、川島が飛び出しカバー
名将「おいおい一体何をやっているんだ。川島を含め今日の守備陣は何だかデンジャラスな臭いが漂っているぞ」
――35分、クロスが流れたところをR・イバーラがシュート。これを川島が一度は弾くが、こぼれ球をメナに押し込まれる
名将「ほれ見たことか。私の鼻はよく効くんだ。しかしあの何の変哲もない緩いクロスは岩田がキッチリと処理すべきだった。ただ川島がR・イバーラのシュートを左手一本で止めたプレーはさすがの私もワールド・オブ・クラスと認定せざるを得ない。貶した途端にビッグ・オブ・セーブを見せるとは、川島はきっと地獄・オブ・耳に違いない。まあ、結局失点はしたがね」
――37分に三好のパスを受けた久保がPA内の右サイドから強烈なシュートを放つが、惜しくもGKに防がれる
名将「振りの小さな見事なシュートだったが、コースがやや甘かったか。しかし彼は期待に違わず両チームの誰よりも質の高いプレーを見せている。ドリブルやパスの筋道に過ちがなく、そのビジョンと判断に綻びがない」
――その3分後には久保のパスから中島がDFラインの裏に抜け出すが、ループシュートは大きく枠の外へ
名所「GKの位置を鑑みるにループという選択肢は悪くなかったが、トップ・オブ・スピードでループをコマンド(制御)できる技術が中島にはなかったようだ。おっとコマンドとはメジャー・オブ・リーグ用語だったね」
ブルーハーツが乱入?
――1―1のままハーフタイム。前半を振り返って
名将「断る。ハーフ・オブ・タイムくらいは寝させてもらうよ。朝っぱらからのフッボル観戦は体に響くんだ。後半が始まり次第起こしてくれたまえ」
――後半開始。52分、富安がゴール前でE・バレンシアの侵入を阻止
名将「冨安は試合の経過とともにギアを上げてきているようだ。スペースを埋める動きも改善され、ボールの扱いも吉田のような硬さはなく、セリエAの挑戦はきっとうまく行くだろう。だからシントトロイデンよ、欲張らずに早く彼を手放すんだ」
――57分に柴崎がオレフエラと頭を衝突させ、一旦ピッチ外へ。包帯を巻いて戻ってくる
名将「ん? マーシー? おっと柴崎か。包帯がさながらバンダナのようで、ブルー・オブ・ハーツの真島昌利が乱入してきたのかと思ったじゃないか」
――66分に岡崎に代わって上田を投入。さっそく久保の縦パスを引き出してシュートを試みるが相手のブロックに遮られる。さらに続けてDFの裏へ抜け出し杉岡のアーリークロスを右足で合わせるも、ボールはゴールを飛び越える
名将「ひとまず決定力は置いておくとして、上田のフィニッシュまでの動きは見とれるほどに質が高い。実際に彼のランが停滞していた日本の攻撃陣に深さと躍動を与えている。何度も言うが、決定力は置いておくとしてだ。そこは触れちゃいかんのだ。彼はまだ傷つきやすい学生の身だ。スラムダンクの福ちゃんのように褒めて伸ばしてやらないと暴発する恐れがある」
――77分にベラスコがフリーでミドルシュート。ボールはサイドネットをかすめる
名将「松山くんのイーグルショットを思わせる低い弾道だったが、オープンな展開でもしっかりと寄せるべきところは寄せていきたいね」
レアル久保の奮闘も虚しく…
――久保が攻撃のスイッチとなり何度もチャンスを作るも、後一歩で決め切れない。90分には交代で入った前田に縦パスを供給して決定機を演出するが、ボールが足につかない前田は非力なシュートを放つの精一杯で、GKが弾いたこぼれ球を上田が再度押し込むも、ボールは枠の彼方へ
名将「レアル久保よ……チームメートのことは嫌いになっても、日本代表のことは嫌いにならないでください!」
――アディショナルタイムには中島がゴール前でのフリーを決め切れず、それを詰めた久保がゴールネットを揺らす
名将「オッケーイ! 劇的すぎる! さすがレアル久保だ! 彼はもっている! しかしだ、エクアドル如きを退けただけで満足しているようでは先が思いやられる。一難去ってまた一難。ベスト8では地元の優勝候補ブラジルが待ち構えている。ただいくらブラジルが相手だとは言え、11人の人間が同じルール内で1つのボールを追いかけ合うのだから、何が起こってもおかしくはない」
――名将? あの、オフサイドですよ
名将「そうだな、すまない。確かに心のオフサイドだ。試合直後だというのに少し先走り過ぎていたようだ。まずは彼らに心身ともに十分な休養を取ってもらい、ブラジル対策はその後にみっちりとやればいい」
――そういった比喩じゃなくて、久保のゴールがオフサイドです。ですから引き分けで、両チームともグループステージ敗退です
名将「……撤収!」