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【巨匠の映画評】『アス』 アイデアを貫き通す信念はシャマランを彷彿とさせるぜ

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監督はインパルス堤下よりモズリー?

この映画評でも取り上げた『ゲット・アウト』を撮った米映画界のインパルス堤下こと、ジョーダン・ピール監督の2作目が公開されたということで、予告していた通りにさっそく見に行ってきた。ただ改めて顔をよく見てみると堤下と言うよりは、ボクシングの元世界3階級王者シェーン・モズリーの方がよく似てたな。まあそんなくだらない話はいいんだよ。

デビュー作のゲット・アウトが割に良かったんで2作目となるこの『アス 』も期待してたんだけど、結果的にはその期待通りの出来だったとは言える。ただこの期待も「もしかすると2発目もコケないかも知れない」という消極的な水準であって、それを超えるまでとはいかなかったことを考えれば、可もなく不可もなくといった所に作品の評価は留まるね。

1作目に続いてのホラー映画なんだけど、始めは一家族に起こったシチュエーションホラー的にスタートして、途中からは妙なサバイバルゾンビギャグアクションのような様相になってなっていく。それは国家政策として1人につき1体クローンが地下に存在しているというアイデアを生かすために強いられた努力の跡でもあるんだけど、それがどちらかと言えば良い方に作用していたようには思うよ。

アイデア優先による副作用

主人公家族の別荘に自分の家族そっくりな「ナニか」が襲って来るんだけど、その正体を明かさずに話を進めて最後にそれを明かすという算段だろうと高を括っていたら、割と早くにそいつら(クローン)の正体を明かすんだ。この展開はいい意味で予想を裏切られたね。そこから家族対抗歌合戦ならぬ、家族対抗デスマッチに移行して、友人家族にも助けを求めるもそこでも家族対抗デスマッチが行われてて、挙句には地下からウヨウヨと他のクローンも這い出て来て、事態が国家規模にまで発展する。

ブラック聖闘士(漫画『聖闘士星矢』)みたいな荒唐無稽なアイデアを妥協なく固持して、一応それに理屈を通して力業で完結させた手腕は評価に値するよ。ただ、やっぱりこういった強引な手法はどうしても副作用が出ちゃうもんなんだ。

アイデアが荒唐無稽なほどリアルな世界でのドラマとして合理的に落とし込むには、荒唐無稽な故、自然な生活空間の中での行動としては描写しづらいから、どうしても台詞による説明的なシーンが多くなっちゃう。

このピール監督がこの地下クローンのアイデアにこだわったのはおそらく、自身が黒人であることから、その抑圧された側や、また人種を問わず貧富の差などの社会の分断をメタファーとして描きたかったからだろうけど、それ故にこの映画は多分に政治的要素があって、見方によってはクローンが本体というブルジョアに反乱を起こす左翼的な映画にも見える。

そうなるとやっぱりメッセージ性が強くなるわけで、先に言った物語の整合性としての説明シーンの上にさらに政治性も帯びるから、映画としてはくどく、説教臭くなるんだ。十分にこってりしたラーメンの上に背脂をチャッチャと追加されるようにね。

だからオイラとしてはもう少しメッセージ性を薄めて欲しかったとは思うけど、地下のクローンというアイデア自体がそもそも監督の政治的な問題意識から発想されたものなら、やっぱり作り手としては不可分なものであって、譲れないラインだったのかも知れないけど。

デビュー作のゲット・アウトはそのメッセージ性に特異な視点があったけど、今回は月並みなものだったから、やや鼻につく感があるんだな。

最後のどんでん返しに注文

後、最後にどんでん返しがあるんだけど、そのオチであるならばもう少し途中で伏線なり説明が欲しかったね。この映画は大まかに言えば、地下のクローンたちが悲惨な環境に耐えられず、地上に上がって自身の本体たちを襲いに来るって話だけど、最後に主人公のアデレードは実はその襲ってくる側の自分のクローン(レッド)と子供の頃に遊園地で既に入れ替わっていたというオチなんだ。

で、襲って来たレッドは本来、本物で、襲われた側の地上のアデレードは元はクローンなんだけど、お互いがその入れ替わったことに対する個人的な恩讐が明確に描かれないんだ。確かにレッドが初めてアデレードと対峙した時には互いの家族を対比しながら、自分の境遇は悲惨だったみたいな個人レベルの恨みを臭わせる台詞や、そもそも地上への反乱の動機がそれだからわからなくもないんだけど、アデレードの方は完全に最後にクローンだった記憶が蘇るまで、地下で生まれたことを覚えてすらいないんだよ。

ならせめて、どうして地下の記憶が喪失したのかを強く裏付けるシーンを描く必要があったんじゃない。それがあれば観てる方もより腑に落ちた感はあったと思うよ。まあオイラがただ見落としている可能性もあるけどね。

まあこういったアイデア勝負の映画は探せばツッコミ所はたくさんあるよ。クローン側も同じ生身の人間であるはずが、鉄の杭みたいなもので頭をフルスイングで殴られた友人家族の旦那がなぜかノーダメージだったしね。もうクローンじゃなくてゾンビじゃねーかって。

この辺は「監督、アクションも盛り上がってきましたし、ここで一つゾンビ化しましょう」なんて現場のノリでやっちゃった可能性もある…ってのは冗談だけど、どう考えてもクローン側は人間の耐久力を逸脱したバケモノばかりだもん。まあ主人公の家族も殺した人数をカウントし合うバケモノ家族で、どっちもどっちなんだけど。

2作目としては及第点

色々とそうした粗が散見される映画だけど、1作目と同様にそれをねじ伏せるとは言えないけど「ま、いっか」みたいな気分にさせる勢いとエネルギーみたいなものはある。途中でも言ったように、とにかくアイデアの大風呂敷も広げ切って、テンションを落とさずにそれを畳み込んだ手腕は2作目としては及第点を与えられるよ。

これは他の人も感じているかも知んないけど、この監督は『シックセンス』で有名なM・ナイト・シャマランに通じるものがあるね。とにかくアイデアファーストの信念で自分の地位や名声すらも犠牲にしちゃうっていう(笑)。シャマランは今ではネタ監督としての地位を確固たるものにしているけど、オイラはあの姿勢や作風が嫌いじゃないんだ。もしかしてオイラはこのピール監督に、シャマランの影を見ていたのかも知れないね。

まあ彼も自己の信念を貫く余り、シャマランのように身を滅ぼさないことを祈るばかりだよ。

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