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巨匠の映画評

【巨匠の映画評】『ゲット・アウト』 リベラルの偽善をうまく炙り出してるぜ

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何だか最近アメリカのトランプ大統領が拘束した不法移民を不法移民に寛容な民主党の地盤に移送させるなんてツイッターで呟いていたけど、リベラルの政治的主張を逆手に取った見事な切り替えしで笑っちゃったね。

それに対して民主党側は「脅しだ」なんて声を上げたんだけど、それを言っちゃダメなんじゃないの。そこは「望むところだ」と受け入れて、「アメリカが進んだ人権国家であることを国の内外に示す」とか嘘でも言っちゃわないとさ、今まで君たちの主張してたことは何だったのってなるじゃん。

つまりはリベラルだって普段は綺麗ごとを並べ立てているけれど、実際に身近な問題としてそれと向き合った時には本音が出ちゃったってわけ。不法移民などの社会的問題をどこかで自分とは隔てられたものとして、リアルな現象としては受け止めていなくてさ、ただ自分の食い扶持のためにアドバルーンを上げていただけで、中身は偽善そのものだったというね。

そういった政治的な偽善を暗に告発したのが、この『ゲット・アウト』という映画だね。

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前回にオイラが少し頭を使うって後回しにしたのがこれでさ、どうせアメリカの根強い人種差別を共和党側に向けて糾弾したような映画かと思ったら、そうじゃなくてなかなかエスプリの効いた作品なんだ。

何年か前に白人至上主義の団体とそれに抗議する団体とが衝突した時にトランプ大統領が「両方に責任がある」なんて発言をしたら、民主党の議員や支持者から猛烈な反発が出たけど、あれは一応民主党が社会の公正を掲げて有色人種やマイノリティーの人権に力を入れているからであって、この映画に出てくる白人も「オバマに3期目があったら投票をする」そんな民主党の支持者なんだ。人種差別に腰が重いトランプの共和党の支持者でないことがミソなんだね。

映画の内容としては白人の恋人ローズの山奥の実家へ挨拶に行った主人公の黒人クリスが、そこの家族や知人の白人連中から誉め殺しのような扱いを受けるというものなんだけど、これがまた変わった理由でね。

この白人たちは黒人の身体能力に強い憧憬をあって、「ラッツ&スター」みたいにみんな黒人になりたがってるんだ。ベン・ジョンソンなんかを連れていきゃ、それこそ全員が泣いて喜ぶような趣味の変わった連中なんだよ。一応断っておくけど、映画にベン・ジョンソンは出てこないからね。ただの例えだよ。

一歩間違えればコントのような設定だけど、差別というのは蔑むことだけじゃなく、こうして同じ人間を自分とは違う何かと線引くことも差別だと気付かされる。

まあこの映画の白人連中はそんな線引くというレベルに留まってなくて、実際に黒人の体を容れ物のように扱っては奴隷制度を思わせる人体のオークションなんかを開催して、落札者は催眠術と脳移植を駆使して黒人の体を乗っ取るようなことをしてるんだ。

つまりこれは黒人への過度な共感が逆に差別の萌芽になっていることや、あるいはまたそういったリベラルな人間でさえ公を離れて私の領域に立った時には人権意識が後退することを暗に示唆しているように思う。

それが黒人が肌で感じているリアルなアメリカ社会の実態であるのかも知れないし、冒頭の不法移民の話にも通じるような気がするの。語り尽くされた単純な構図としてではなく、当事者以外の人間には気付けない視点で人種差別を描いているところに、脚本も兼ねた黒人監督のジョーダン・ピールの妙技を感じるね。


聞けばこれが映画監督としての処女作らしいけど、新人監督にありがちな変に凝ったカットもなくて、インパルスの堤下みたいな風貌をしているくせに味のあるスリラーにまとめ上げているよ。

Amazonの商品ページにある「映画の常識を覆すサプライズ・スリラー」という宣伝文は少し盛り過ぎだと思うけど、催眠術や肉体の乗っ取りとか下手するとB級映画に成り下がるようなアイデアを人種差別という社会問題にギリギリのラインで落とし込めた構造的な新しさは、何だか従来のものとは毛色の違う、いい意味で居心地の悪い絵を作っていることは確かだよ。

それにはもちろん役者の貢献も大きくて、ローラの弟役なんかはイカれた感じがよく出てるし、使用人の黒人女性も泣きながら笑うから、笑いながら怒る竹中直人ばりの不気味さがあった。パーティーの招待客の中の唯一の黒人はやけにタイガー・ウッズに似てるしさ、カメラのフラッシュを浴びた時にゴルフクラブを持って暴れてくれたらもう言うことはなかったんだけど、惜しかったね。

何だかやけに誉めちゃったけど、やっぱりアイデアとしてはコントと紙一重だから色々とツッコミどころもあるし、設定の根幹部分を気にし出すと楽しめないのかもしれない。

それでもこの映画には切り口や構造に新しさや勢いみたいなのがあってさ、そういった不備を打ち消すだけのパワーは持ってるよ。まあこの監督にとっての勝負は2作目になるんだろうけど、アメリカじゃもう公開されてるって話だから、日本で公開すれば軍団を連れて見に行ってやってもいいかな。

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