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【巨匠のレビュー】『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』/認識より行動を優先させちゃ革命は成らないぜ

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討論に濁りを与える解説陣はいらない

1973年のオイルショックの時にデマに流された市民がトイレットペーパーを買い占めて社会問題になったけど、それから50年後の今日にでも同様のデマによって同じ現象が起きているのを見ると、時代や環境は変われど「何も学ばず、何も忘れず」(仏政治家タレーラン)な人間の本質は変わらないってことだね。戦後の日本や日本人に愛想を尽かせた三島由紀夫はその3年前に市ヶ谷で割腹自殺を遂げたけど、仮にこの令和の時代に蘇ったとしても、未だ憲法に自衛隊を戦力と明記できず米国から独立を果たせない現状に「やっぱりこの国はダメだな」と絶望して、また自殺しちゃうんじゃねーのかな。

ということで、今回の映画は『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』という暑苦しいにも程がある作品だね。何たってスクリーンに出てくる人間がほとんど男で、唯一出て来た女が瀬戸内寂聴だという男女平等の風潮に宣戦布告をかますような作品だからね。これじゃあまだ『2001年宇宙の旅』や漫画の『カイジ』の方が女率が高かったんじゃないの(笑)。まあ別に女性比率を増やせって言ってるんじゃなく、むしろこの寂聴をはじめ、当事者でもない学者や作家の解説陣が邪魔で仕方がなかったくらいだね。

そもそも解説者を配置させるということは、そこに必ず製作意図に沿った作為的な人選が生まれるわけで、それが如何なる解説であろうとも当事者でない限り、実際の討論に濁りを与えるだけでしかないの。内田樹という学者なんか「三島は本気で全共闘を説得しようとしてた」なんてチンプンカンプンなこと言ってるしね。こんなマヌケな解説に時間を割くぐらいなら、三島の側近や全共闘の当事者へのインタビュー以外はとにかく討論映像だけで埋めて欲しかったよ。

公式サイトで「稀代の天才作家・三島由紀夫と、血気盛んな東大全共闘の討論会の全貌だ」なんて書いてるけど、全然全貌でもなく、YouTubeに上がっている動画を軸に少し新しい映像を肉付けした程度で、ちょっとがっかりしたんだから。尺の関係で全部を見せることはできないにせよ、テーマ毎に区切っているとは言え、やっぱり断片的に見せられちゃ余り理解も捗らないって。

観念を脱却したい全共闘としたくない三島のミスマッチ

討論の中身としては後に三島が「学生らの言葉は余りよくわからなかった」と言ってるように、部外者であるオイラたちが断片的に鑑賞したところで尚更わかるはずがない。個々の話の中身自体はまあ理解はできるんだけど、その討論が果たしてどこに向かっていて、何の意味があるのかが全くわかんないわけ。もっと言えば全共闘の彼らは三島に何を求めていたのか。論破をして切腹させるなんて説明があったけど、切腹させたところで全共闘の目的に何か資するところがあったのか。まさに木を見て森を見ず状態。木どころか盆栽を見ているような感じで、ずっとトンネルの中にいるようなもんだよ。その上、各論の討論自体も根本的に両者が噛み合っていないと来ている。

この討論はオイラの個人的な解釈では、観念から脱却したい全共闘と観念の中で生きることを使命とする三島の対決で、学生の方は観念や既成概念や関係というものの中で生きることへのバカらしさを訴えるんだけど(聴衆の誰かが猥褻なんて叫んでたけど)、その所謂バカらしさ、仏教で言うところの因果の中に絡まることを喜びとする三島にいくらそれをぶつけたところで、三島としては「君の自由人としての生き方を尊重するよ。それでいいよね」としか返しようがないもんね。この言葉に両者の立ち位置の違いが凝縮しているような気がするね。同じ土俵に立ってないの。いや、立てない。それに尽きる。

内田の発言がマヌケだって言ったのは、三島はそれをわかった上で、つまりわかり合えないと知った上で東大の後輩たちと討論を楽しんでいるのであって、少なくとも説得しようなんて言葉や態度は微塵も出てなかったことは画面を見てりゃわかるだろって。でも内田と同じく全共闘も同じ土俵に立っていると勘違いしてるから、論破したくてたまらなくてますます討論が空回りして来る。

そもそも全共闘の連中が観念から脱却しようとしていながら、それに自ら囚われに行くような姿勢もオイラにはよくわからない。彼らが革命をしたいってのはまあ百歩譲ってわかる。で、その運動の中で「解放区」なんて言葉が出て来たけど、これは本来は革命勢力が国家権力から奪った領地のことで、彼らはさらにそこへ関係や因果を断った地帯と定義していた。そこはつまり討論でも言及してたけど、机が机であり得ないただの事物と化してまう所になるらしい。要するに解放区とは、また仏教に例えるけど空の思想を体現していた場所なんだろう(わからない人は検索して)。

つまり空(開放区=関係付けのない)の中にあれば、どんな事物もその存在自体がなくなってしまう。さっきの机を例に取れば、人間よりも関係付けができないゴキブリが机を見ても机という概念を理解できないから、ゴキブリの世界には机(の用途)は存在しなくて、ゴキブリの認識をさらに超えて、手に触れられる個体とか事物とかいう五感や概念すらも滅却すれば、もう全てが消滅しちゃうんだよね。

じゃあ、その関係付けのオン、オフをしているのは何かって言えば、我々人間の意識であって、意識がそう認識した時に世界は確定する。これは量子学にも通じる話だけど、全共闘の彼らもどうやらそこまではわかっているようなんだ。でもそこからのアクションに矛盾が出てくる。

ヘルメットにゲバ棒を持つ行動の矛盾

認識で全てが確定するなら、そもそも行動しちゃダメなんだよ。ヘルメットにゲバ棒を持った時点でアウト。認識した瞬間に全てが決まるとわかっていながら、革命という目標に向かって行動する矛盾がわかってないんだ。

どういうことかと言うと、行動しようとするからには、行動しなきゃならない状況という認識があるってことでしょ。それはつまりまだ革命が達成されていないという認識なわけで、この認識を変えなきゃいつまで経っても目の前にぶら下げたニンジンを追う馬のようなものなんだ。革命を達成したいのなら「あー革命を達成した。記念に風俗にでも行くか」と現実を認識するだけで、革命に向けての行動を何もしないのが本来は正解なわけ。

逆に行動した瞬間に革命という世界は崩れちゃう。それだとソ連みたいに血生臭いことをやった果てに現実を見て認識を変える(革命を達成した)という回り道になってしまったり、むしろ成就しない可能性の方が高い。実際に日本では、いや、彼ら個々の世界では日本では革命は起きなかった(厳密にはオイラがそう認識してるだけだけど)。何で彼らは空のような思想を理解しておきながら、根本的な認識を変えずに行動ばかりを求めていたのかがオイラには理解できないね。

三島についても「他者」って話の件だけど、彼は相手が自分の意のままにならないものを他者と個人的に定義してたけど、これもオイラからすれば一つの関係付けであって、本来は自己という意識すらも自己という関係付けだから幻想なわけ。つまり自己がなけりゃ他者がいないわけで、逆説的には自分が操作するゲームのキャラみたいに自己でさえ他者になり得るし、人に限らずどんな事物も定義次第で他者になり得るはずなのよ。

まあとにかく、根本の認識を転換しないことには、全共闘の背の高い一人が言ってた「観念界のお遊びなんだよ」の一言に尽きるよ。いい台詞を吐いてた彼も、他者がいることを前提にしている時点でその観念に囚われているように見えたのは愛敬だけどね。観念を道具に用いるなら、徹底的にそれにどっぷりと浸からない限り世界は変わらない。

「行動の無効性」という哀愁

そうそう、この背の高い全共闘が最初「三島を殴りに来た」と息巻いたときに、全共闘のエース的存在の芥って人が「出てこいよ! 殴りたきゃ殴れよ!」なんて叫んでたけど、それは殴られる対象の三島が言う台詞だろうって笑っちゃったな。

まあこれに限らず、緊張の中に緩和じゃないけど、ちょっとした言葉が爆笑を誘うようなシーンが所々にあって、コメディ的な要素が頭を使う映像の中にあってなかなかいい清涼剤となってたね。逆に最後の方ではセンチなシーンもあって、全共闘の木村って人のインタビューで、討論から後日にあった彼の奥さんと三島の電話でのエピソードは少しグッと来るものがあったね。あの三島の言葉は映画やドラマなんかで書くと陳腐になっちゃうんだけど、現実としてあの場面であの台詞を吐く重みって言うのかな、何か三島の人柄が全部表れたようで図らずも感傷的になってしまったじゃないの。

まあオイラ個人として一番心に残ったのは三島が言った「行動(行為?)の無効性」という哀愁ある言葉かな。これは自分の楯の会と全共闘の行動についての共通性を自嘲的に語った言葉だけど、この言葉の通りに三島の死を含めて全共闘の運動も結局、驚くほどの徒労さで何も日本を変えることはなかったからさ。いや、今のところは何も変えるところがなかったと言うべきなのかな。実際にまたこうして三島の映画も作られて、彼の生き様が令和の世でも脚光を浴びることで、少しずつ日本人の心にも蓄積されるものができて何かしらの変化に繋がるのかも知れないからね。

そんなことを思いながらエンドロールを迎えると、暗闇の中であのホラー映画『リング』のようなBGMが流れて来やがって、これじゃあ余韻に浸るどころか、スクリーンの中から貞子が出てくるのかと妙な気分になったじゃねーか、バカヤロ!

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