日本社会を表象するスタメン
ボンジョールノ、諸君。
今朝、コパ・アメリカのグループC第2節が行われ、日本は同大会の最多優勝記録を誇るウルグアイと熱戦の末に2―2で引き分けた。私はこの試合の時間帯にたまたま人格に難のある編集者A氏と同席していたため、彼からの質問に随時レクチャーをしながら観戦する羽目になってしまった。その時の音源がいま手許にあるので、それをここに採録してみたいと思う。
A氏(以下――)そろそろ始まりますね。この試合で名将が注目する選手は?
名将「今回のヒャクショー・オブ・ブルー(フルメンバーではないため、名将はサムライを百姓に置き換えている)のスカッドは実に興味深い。ベテランと若手との融合は、伝統とテクノロジーが共存する日本社会そのものを思わせる。そういった意味ではベテランである岡崎と川島が天地(CFとGK)にいることで、ハン・オブ・バーガーのように若人らを優しく挟んではチームに落ち着きが生まれるだろうし、その若手の中でも私が画面を通して気になったのが右サイドの三好だ。代表初先発なのにイレ込みがないばかりか、肌の艶が良く体重の増減もない。何だか今日はいい走りを見せてくれそうな気がするね」
――開始早々にスアレスがセンターサークルからロングシュート
名将「慌てるな。『キャプテン翼』じゃあるまいし、そう簡単に入るものじゃない。川島も枠に行かないと悟りつつ、一応はカメラを意識しながらダイブ気味に飛び込んではいたがね」
ムスレラの先入観を打ち破る
――さっそく名将注目の三好がサイド深くをえぐり、岡崎に良いクロス
名将「三好のクロスも良かったが、シュート自体も岡崎の割に洒落たコースだった。しかし何だか彼は植毛をして若返ったね。ところで質問なのだが、植毛とアデ・オブ・ランスは違うものなのかい?」
――12分にカバーニの折り返しをスアレスが強烈なヘッド。しかしボールは川島の正面
名将「見事にマークを外されたが、そこには我らがオーバー・オブ・エイジのエイジ・カワシマが立ち塞がった。……プププ、このダジャレの使用は2回目だが、あまりのキレの良さに自分でも吹き出してしまう」
――24分に柴崎のフィードから三好が右サイドを駆け上がり、GKのニアをぶち抜く見事なゴール
名将「ホーラ、ミヨシ(三好)ラロー! ホーラ! ホーラ! ホー…ゲホゲホ!」
――技術的な解説を
名将「ゲホゲホ……GKのムスレラは無理にシュートを打とうとしない日本選手の傾向を知っていたせいか、完全にクロスと高を括っていたようだ。三好がボールを振りぬく直前に体がファーの方へ流れてしまっている。これには監督のタバレスもムスレラだけにムスッときただろうね……ふむ、これはイマイチだな」
――28分にカバーニが日本のペナルティーエリア(PA)内で倒れ、VAR判定に
名将「フフフ、これでVARの対象になるのかい。ジョークが過ぎるな。まあ心配することはない。これは完全にカバーニのシミュレーショ……」
――が、判定は植田のファウルで、スアレスがPKを決めて同点となる
名将「……あ…ありのまま今起こった事を話すぜ! 植田がカバーニに蹴られたと思ったら、スアレスがPKを蹴っていた。な…何を言っているのかわからねーと思うが、おれも何をされたのかわからなかった…頭がどうにかなりそうだった」
――33分に柴崎がよく戻り、左サイドのカウンターを阻止
名将「チリ戦から柴崎が攻守に躍動している。この危機察知能力もフッボルIQが高い証拠で、フッボルIQが低い人間は運転免許の失効すらも気付かないと言うからね、フフフ(川崎の守田を揶揄?)」
VAR・オブ・VARを導入を
――前半は日本が予想外の健闘で1―1
名将「だから私は言ったんだ! モニター室にいるVAR審判員らの不正も監視するVAR・オブ・VARを導入しろと! これだから私腹を肥やすだけしか脳がないFIFAの老害連中は腐り切っているんだ!」
――南米サッカー連盟の主催なのですが
名将「…後半はまだか。何だかまた三好がやってくれそうな気がするんだ。私のセブン・オブ・センシズがそう言っている」
――後半開始すぐに相手PA内で中島がルーレットを見せるも倒される
名将「オッケーイ! PK!」
――が、笛はならず
名将「VAR! VAR! VAR! 皆さんもご唱和を!」
――VARに諮る様子もない
名称「F××××××CK! どうだ? これがウルグアイが最多優勝国である所以だ。しかし中島の動き出しのアジリティーは抜群だな。プレーに華もあって、ウルグアイはかなり手を焼いているぞ」
川島と岡崎はまだやれる
――54分に川島がカバーニとの1対1を防ぐ
名将「謝ろう。いくら老いぼれだからと言っても、川島は日本人GKの中では抜けている。好不調の波は激しいが、当たっている日はワールド・オブ・クラスになる。当たっている日は。重要なことだから2回言いました」
――その1分後、岡崎が意外に得意としているターンからのシュート
名将「この試合の岡崎は常に質の高いプレスで相手のビルド・オブ・アップの脅威となっている。さすがはレジェンド・オブ・レスターだ」
――58分に杉岡のクロスをムスレラが触れるも、こぼれ球をまたもや三好が詰めて日本が勝ち越し
名将「ウォー!! 三好最高や! 堂安なんて最初からいらんかったんや! 三好からとてつもない猛虎魂を感じる!」
――しかし66分にCKからヒメネスが難易度の高いヘッドを突き刺し、ウルグアイが再び同点
名将「冨安も懸命に競り合ったが、ヒメネスが一枚上手だった。決してベルギーでは味わえないスピードと決定力だったろう。なるべく早くボローニャに移籍することだ。その折には私がミランで経営してる太鼓バー『TAKADA-NOBUHIKO』に立ち寄ってくれたまえ。移籍祝いとして特別に2%引きでソフト・オブ・ドリンク提供させてもらうよ」
防戦一方の時の対処法
――時間が経つに連れて防戦一方になる日本
名将「こういった心臓の悪い時間帯にはチャンネルを変えるに限る。さっさと日テレに変えるんだ」
――チャンネルというかネット中継をPCで見ているんですが、見ないんですか?
名将「試合が終わったら起こしてくれ。それにしても一体、何時に試合をやっているんだ。眠くてたまらん。早くミュートにしてくれ」
――2―2のまま試合が終わり、日本が価値ある勝ち点1をGET。名将を起こす
名将「ん? 終わったか。待て、結果は言うな。今からスマホを開いて、薄目を徐々に解除しながらネットニュースのスコアを確認する……。(確認し)ブラボーだ。実質的な勝利と言えたチリ戦の勢いを維持して、強豪ウルグアイから勝ち点を奪ったことを称賛に値する。しかし本来ならばカバーニではなく中島にPKが与えられるはずであったことを考えれば、勝ち点が不当に奪われたとの見方もできる。ただ日本代表も戦ったのがヒャクショー・オブ・ブルーだ。そのことを鑑みれば、この結果に十分な満足を得たところでバチは決して当たるまい。それにしても私が試合前に名前を挙げた3選手全てが活躍をしたわけだが、手前味噌ながら自分の慧眼には恐れ入る。一つ遺憾だったのがモンスター久保を出さなかった森保監督の采配だが、エクアドル戦への温存と捉えて今回はひとまず不問にしておこう(名将が寝ている間に途中出場していました)」
<編集者より>事実関係と致しまして、私はここ1カ月、名将とはお会いした記憶がないのですが……。私のドッペルゲンガーか、はたまた虚栄心の強い名将の後付けの捏造解説のどちらかと思われます。おそらく後者の可能性が高いです