Jリーグは新戦術の宝庫
ボンジョールノ、諸君。
日本は決してフッボルの先進国だとは言えないが、時に世界の耳目を集める新たな戦術を我々に提供してくれる。
G大阪の丹羽のバックパスが大きくなりGK東口の頭上を越えてあわやオウンゴールとなりかけたが、東口が懸命に伸ばす足に触れたボールはゴールポストに跳ね返り、体勢を立て直した東口がそれを即座にフィード。
そこからオ・ジェソク、遠藤、パトリック、米倉と繋ぎ、その米倉が左にサイドチェンジをすると走り込んできた藤春がダイレクトで合わせ、決勝点をゴール右隅に突き刺さした。
自軍のゴールポストにボールを当てることで敵の心に虚を作り、その間隙を突いてゴールを奪ったこのカウンターは世界では「セルフカウンター」と称され、フッボルの戦術史に新たな1ページを加えたことは既に周知の事実だ。
そして昨日、Jリーグにまたもや「世界よ、これが日本だ」と言わんばかりの革命的な戦術が編み出された。しかもそれは既存の戦術の流れとは一線を画す、世界のフッボルにおいてシンギュラリティ(技術的特異点)ともなり得るものだった。
審判をも組み込んだ新しさ
埼玉スタジアムで行われたJ1第12節、浦和レッズ―湘南ベルマール戦の前半31分。まずは湘南の杉岡がペナルティーエリアの外から放ったシュートが右ポストを叩く。
この時点まではまだセルフカウンターと似た経緯を辿っているが、ボールはそこから左ネットへ触れたような軌道を辿っていく。
湘南の選手らはゴールだと自己判定して一度気を抜き自陣に引き返していくが、山本雄大主審がその油断を見逃さず、ノーゴール判定という起点を作り、カウンターのスイッチを入れる。
湘南を欺くGK西川のゴールを奪われたかのような投げやりなスローイングから、浦和は「笛があるまではプレーを止めてはいけない」というフッボルの基本を忠実に実践し、ゴールと思い込んでチンタラ歩く湘南イレブンを置き去りにゴールへと一目散に向かう。
最後は惜しくもナバウトがGKとの1対1を決め切れなかったが、そのカウンターはこれまでのフッボルの常識を大きく逸脱するものがあった。
戦術とは本来、選手らのみで展開されるものだが、この浦和の「ノーゴールカウンター」の新しさは審判をもその中に組み込んでしまったことだ。
おそらく試合前に審判団は浦和陣営からフッボルを新次元に引き上げるための一役を買わないかと持ちかけられたのだろうが、この浦和の戦術には審判の中立性を破ってまでそれに加担するだけの価値はあったと思われる。
2010年代で最高のゴール確率
フフフ、ということで以上はJリーグの審判レベルに対する私なりの極上の皮肉だ。さすがにこの試合のおけるノーゴール判定は、大きな疑義を招くものだと言わざるを得ない。
なぜなら、私のプロファイリング・ラボの誤審調査チームでも、杉岡のシュートは82.6%の確率でゴールだったという詳細な分析が出ているからだ。
これは南アフリカ・ワールドカップの決勝トーナメント1回戦イングランド―ドイツ戦のゴール確率74.1%だったランパードのシュートなどを抜いて、2010年代ではノーゴール判定されたシュートの中では一番高い数値となっている。
Jリーグの運営側はこの数値を重く受け止め、善処に努めるよう強く促したい。