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ドラマ 巨匠の映画評

【巨匠のレビュー】『FARGO/ファーゴ』シーズン1/殺し屋の描写にやや生煮え感があったぜ

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滲み出るコーエン兄弟節

オイラのこの連載は一応は映画評ということになってるんだけど、Amazonプライム・ビデオの年会費を今年も払っちゃった以上は映画以外のコンテンツも隈なく貪って元以上のものを取らせてもらうよ。そういうわけで今回は映画じゃなく、TVドラマのレビューになる。と言っても予算も頭も使っていない日本のTVドラマじゃなくて、米国のTVドラマだからね。

近年の米国のTVドラマ業界は映画業界よりも金が動いているなんて言うし、金が動くということは人材もそこに集まってくるわけだから自ずと出来上がる作品も質の高いものになる。そのような期待もあって見ていこうと思うんだけど、オイラはまだ米国のTVドラマには不案内だから、何年か前に話題になっていた『FARGO/ファーゴ』のシーズン1(2014年)から無難に手を付けることにした。

このドラマはタイトルの通りコーエン兄弟が1996年に取った同名映画に着想を得て製作されたものらしいんだけど、製作指揮陣の中にも彼らの名前があるようにコーエン兄弟色の強い作品になっている。ただタイトルは「ファーゴ」なんだけど、それ以上にアカデミー賞を取った『ノーカントリー』の要素が強く出ているね。

ノーカントリーの原題は『No Country for Old Men』で、直訳すれば「老人の住む国にあらず」って意味だけど、その脈絡でこのドラマも語られている。それは最終10話目で警察署長であるビルが「昔はもっと地域の連帯や思いやりがあったが、今は理解できない残虐なことが起きる」的な台詞に表れていて、あれはもろノーカントリーのベルのモノローグと被っているもんね。まさに老人が住めないっていう。

その「理解できない残虐」の象徴として描かれているのがノーカントリーでは有名なシガーで、このドラマではマルヴォという殺し屋になる。

テーマが先? アイデアが先?

ただノーカントリーのシガーは完全にイッちゃってるコミュ障なサイコパスなのに対して、このドラマのマルヴォはまだ場に応じて柔軟に人格を使い分けられる人間的な描かれ方をしている。なんだけどその割に残虐な人格形成に至る過去の背景が描かれず、生煮えのような感じになっている。

1話目でマルヴォが主人公のレスターからいじめっ子だったヘスの殺しを請け負うんだけど、なんで請け負ったのかがよくわからないんだ。缶ジュースはもらったけどそれが報酬のわけはないし、オイラはてっきりその2人の間に何か知られざる過去があって、それがマルヴォの人生に何らかの狂いをもたらしたのかなんて勘ぐって見ていたけど、結局何もなくそのまま終わっちゃったからね。

どうせならノーカントリーと同様に完全なサイコパスにして、それこそどこから湧いて来たのかわからない悪魔の化身として描いた方が良かったんじゃないかな。人間も自然災害のように通じ合えない凶暴さを秘めているというテーマにより沿ったものになった気もするんだけどね。

今、テーマって言ったけど、それはあくまでもオイラが個人的に感じ取ったもので、制作側が意図したかどうかは別だよ。まあこのドラマに関してはさっきも言ったように、ノーカントリーの台詞を踏襲しているからテーマらしきものはある程度、明瞭にはなっているんだけど。

ちょっと話がズレるけど、作り手でもテーマから入るタイプとそうじゃないタイプがいてさ、どっちがいいとかじゃないけど、オイラの場合は物語の広がりを制限しちゃうような気がして映画作りで先にテーマなんては考えない。

例えば極端な話「タバコは体に毒です」なんてテーマを掲げて脚本を書くとして、でも話の流れ上どうしても「タバコを吸った方が人生は楽しい」という方向にもっていった方が物語がより面白くて上質になるっていう時に個人の思想やら心情から当初のテーマに縛られていちゃ、その選択肢を排除しちゃうじゃない。そうなると面白くもなく、説教じみた話になる恐れがあるの。

だからオイラはテーマなんて考えず、とりあえず思いついたアイデアをまな板の上に乗せてみて、それをどのように調理すれば深みとコクが出るのかを考える。そこには予めテーマなんかないんだけど、調理をしていくうちに自ずとテーマらしきものが立ち上ってくる。もちろんそこに1つの答えなんてなくて、見る側はまた別のテーマを感じ取るかもしれない。確か安部公房もこれと同じようなことを言ってた思うけど、やっぱりノーベル賞候補クラスにもなっちゃうとオイラの領域に近づいてくるね(笑)。

無論、テーマという制限の中で上手く作っている作品も山ほどあるし否定はしないよ。これは芸術観や人生観の違いと言えるからね。映画や小説はよく人間を描くなんて言うじゃない。それはもちろんなんだけど、人生そのものに普遍的なテーマはなんてものはないわけでさ。

哲学を持っている人間もいれば、いない人間もいる。「愛だ」なんてほざいている人間もいれば、「セ〇クス」だなんてのたまう人間もいる。言ってみれば無地のキャンバスに各人が勝手な色付けをしているに過ぎなくて、オイラはそんな仏教観的な人間や宇宙の曖昧さを映画の核にしているから、創作過程における偶然を大事にしてるってわけ。

日本じゃ通らない主人公のキャラ

すこし余談が長くなったけど、このドラマにおけるテーマをさらに言えば「カオスな社会だからこそ、より人々の強い連帯が大切だ」ってな感じで、いかにも銃社会の米国らしいものとなっている。この作品は冒頭にも言ったようにコーエン兄弟色が強くてブラックコメディ調なんだけど、そこにチラホラとその連帯の象徴である家族愛のセンチなシーンを挿入しては、ドラマを上手く引き締めている。

コメディアンにとって笑いが一番生きるのはシリアスな状況であって、ただ屁をするのと先生に叱られながら屁をするのとでは面白さが全然違うじゃない。それと同じで、ブラックコメディな色調の中にセンチなシーンをポンと入れられると、それが妙に引き立ってくるんだ。

ただこのドラマが変わっているのは主人公のレスターにはそんなシーンが全くなくて、回を重ねる毎にクズ人間の度合いを増していくってことだね。

始めの頃はいい歳こいていじめられる陰気なキャラでまだ同情の余地はあったんだけど、嫁を殺したり、その罪を弟に着せたりと、もう主人公かと疑うくらいに嫌なヤツに変質していく。顔が何だかアーセナルの前監督のベンゲルにも似ててさ、ベンゲルのイメージまでも悪くなっちゃうくらいの胸クソぶりなんだよ。

ただそれは作り手としては誉め言葉であって、濃いキャラクターをしっかりと描けていることを意味しているからね。ただ1つ解せないのはマルヴォと再会した時に、向こうは避けていたのに何であんなに自分から絡みにいったのかな。セールスマンとして成功して自信家へと変貌した側面を見せるにしても、ストーリーを進めるためだけのやや強引な展開に映ったよ。

しかしこれを見てると米国じゃ放映側のTV局にじゃなく、制作側のクリエイターに最終的な編集権があるというのは本当らしいね。日本じゃ人を殺して濡れ衣を着せる主人公なんて、スポンサーがうるさくて企画自体も通らないだろうからさ。

まあDVDのジャケットにこそレスターが映っているけど、そのあくどさを中和する厳密な意味での主人公は警察署の副署長であるモリーだろうけどね。

彼女は肉付きも良くて決して美人とは言えないんだけど、それが却って母性的でおっかさんのような包容力を醸し出していて誰かは知らないけどいい配役だと思ったよ。そう言えばこのドラマ自体に美男美女がそもそもいなかったけど、それが妙な生々しさを引き出していたのかも知れないね。ただ後半の髪形を変えたマルヴォだけはいい男だったかな…って、オイラはホ〇じゃないよ。

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ホームドラマが土台にある米国

また話が逸れたけど、このモリーに一番視聴者の共感が募るようなドラマの構造になっていて、つまり彼女が一番真っ当な人間なわけ。真っ当というのは正義感が強く、他人への思いやりに溢れ、家族を一番に考えている。その家族という単位がこのドラマでは重要な役割を担っていくんだけど、日本は謙遜の文化だからかホームドラマと銘打ったもの以外は妙な身内の気恥ずかしさもあって、そう家族を全面に押し出してこないもん。ここに文化の違いを感じるね。

そう考えると米国のドラマや映画はどのジャンルにおいてもほとんど家族を土台にしているわけで、このドラマも一応はブラックコメディサスペンスという触れ込みなんだけど、その尻尾の所にはしっかりとホームドラマが付いている。そんなホームドラマをホームドラマが苦手なオイラが続けざまに10話を見ちゃったんだから、この作品は「クリフハンガー」も効いているし、視聴者を引っ張る力はあるってこと。

ちなみにクリフハンガーというのはちょうど良い所で話を切って次回への期待を引き上げる手法のことで、決して作中でスタローンが山に登ったりなんかしないからね。

ということでそろそろ紙数が尽きてきたけど、あまり中身に関して具体的な言及をしていないのは、10話も続けて見ているうちに過去の回をどんどんと忘れていっちゃったからなんだ。だから今、最終回以外は具体的なシーンはほとんど覚えていなくて、もっと言えば最終回ですら覚束ない。さすがにオイラも歳だね。

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