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【巨匠のレビュー】『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』/主人公がブスなせいで損しているぜ

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映画館は再開したけど旧作ばかり…

ようやく緊急事態宣言が解除されてシネコンなんかも再開したようだから、気晴らしに広いスクリーンで映画でも見に行ってみるとやっぱりまだまだ人の入りは少なくて、平常に戻るまでは旧作ばかりを上映している。その中には『君の膵臓をたべたい』という字面すらも拝みたくない代物もあってゾッとしたけど、なるべくそれを視界に入れずに割と最近の公開(2019年)だという、この『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』を見ることにした。

これにした決め手は上映時間が短い(80分)ってことと、文化庁のお偉いさん方がお薦め下さっているというのが大きい(文化庁メディア芸術祭のアニメーション部門優秀賞)。何たってオイラは文化庁の上部組織である文部科学省の役人とは自宅で賭け麻雀をやるような仲で、そのおかげで2年前には旭日小綬章を貰った義理もあるから官僚との結びつきが半端なくて、今度はオイラがその見返りとして彼らの審美眼について専門家として担保を与えてやんなきゃと思ったからなのよ。つまりは君たちが羨む上級国民のしがらみってやつ。

…と言うのはもちろん冗談であって、これは昨今の官僚やメディアに対する皮肉であると同時に、配給会社に忖度しまくっている自称映画評論家のおすぎに対する高度な揶揄だからね。オイラの辞書には忖度なんて言葉はない。あるのはセン○リだけ。…うん、これは多少無理のある下ネタだったけど、今回も忖度なしにガチンコで感想を述べていくことにしよう。

『アナと雪の女王2』を裏返したような構造

この映画を見て思ったのは同じくアニメ映画の『アナと雪の女王2』を裏返したような作品だってことだね。どちらも女が主人公で寒い所に向かうというのが共通しているけど、作劇の構造が見事なまでに正反対。『アナ雪2』の方はシナリオがやや散漫で子供向きにしては自己探求という内側に向かっていく筋の見えづらいものだったけど、この『ロング~』はシナリオがパズルのように過不足なくきっちりと組み上げられていて、主人公サーシャの行動目的も祖父が遭難した船(ダバイ号)を見つけるという外面的にもわかりやすい作りになっている。シークエンス毎にうまく主人公が北極へ向かう動機、そこに至るまでの過程を必然性をまぶしながら細かく繋いでいっているし、主人公の振る舞いには一貫した太い筋が通っている。

単順な出来不出来で言っても、さすがは文化庁先生のお墨付きもあってこっちの方が遥かに質は高いし、唯一『アナ雪』に負けている点を挙げれば、主人公のサーシャがブスだっていうことくらい。このアニメは折り紙で作ったような絵柄でいわゆる輪郭線がなく、出てくるキャラクターの造形には少しクセがあって、ブスなのはそれが原因でもあるんだろうけど、それでも上手く表情に感情を乗っけてて、キャラの息吹はしっかりと感じ取ることができた。

で、いい意味でちょっとした異端さを覚えたのが女の子が主人公なのに余り恋愛の要素がなかったってこと。ほぼ冒険譚に終始していて、ラブシーンは坊主の少年との人工呼吸のとこぐらいで、まあこの主人公の見てくれでラブシーンを展開されてもあれだったから最小限に留めてくれたのはよかったけれど、もしかしてそれは意図したものではなく尺の関係であったのかも知れない。

と言うのも、テンポが良いと言うよりは若干急ぎ足に感じたのよ。オイラの動体視力が衰えている可能性もあるけど、何か早送りで見せられているような感じで、フランス語も何だか早口に聞こえるから、80分という短い上映時間の中に無理やり話を詰め込んだような窮屈さなんだ。冒頭に言ったようにパズルのピースが隙間なく組み上がってはいるんだけど、逆説的にそれは間を与えられる程にフレーム(尺)に余裕がなかったとも受け取れるわけで、やっぱりいくら話に整合性があってもシーンシーンで間を作り余韻を与えていかなきゃ、悪く傾けば紙芝居になっちゃうからね。

1つだけ腑に落ちないパズルのピース

ただ、そのパズルのピースも最後の方までは上手く嵌ってはいたんだけど、個人的にはたった1つだけ微妙に形の合わないピースがあったように思う。

サーシャにダバイ号発見の懸賞金目当てで協力してくれることになったノルゲ号の船員たちが、このノルゲ号が北極海で海の藻屑となったことに茫然自失となってしまうんだけど、北極の氷の上で食料や帰る手段もなくなったんだから、その絶望的な心理はよくわかる。

それで船員たちは「そもそもお前のせいだ」なんてサーシャのせいにしたりして一触即発になるんだけど、なぜかそこで「ダバイ号を発見できれば帰れる」なんてみんなが納得して、また一致団結するんだよ。でもそこでオイラは、1年前に極寒の北極で遭難したはずの船を仮に見つけることができたとしてもまだ動くとも思えないし、そもそも普通は海底に沈んでんじゃねーのなんて疑問が湧いてきちゃったの。

いくらこのままじゃ全員がホッキョクグマの餌になるからと言って、やたらと祖父に思い入れがあるサーシャは別として、他の船員がそんな絶望の中で北極海のどこかで氷漬けにされている遭難船に対して大きな希望を抱けるのか、そこに対する感情の動線だけがいまいち腑に落ちなかったんだよな。

このシークエンスがこの映画の一番の葛藤(ドラマ)ポイントで、主人公たちの運命が決まる帰路にもなる部分だった上、その他の部分ではサーシャがノルゲ号に搭乗するまでのイヤリングのくだり等々、エピソードのパズルが小気味よく嵌っていたし、19世紀における砕氷作業の描写なんかも興味深くて地に足がついたものであったから、余計目に付いたってのもある。

まあこれに関しては蒸気船か石炭船かは知らないけどオイラは船の仕組みについては知識もないし、専門家からすれば1年前に北極で遭難した船が使える目途があるということなのかも知れないからね。何だか褒めているのか貶しているのかよくわからない文面になっちゃったけど、総評としてはこの映画は子供も大人も見れる全世代的な作品でかつ質も伴ってるし、小さい女の子が見たって『アナ雪2』よりも面白いと感じる子は多いと思うよ。

例えるなら門田博光的

ただその上で断言すると、それでもこの映画は余り人口には膾炙しないと思う。実際に昨年の公開だったにも拘わらず業界人のオイラは耳にしたこともなく、なんなら新作だと思ったくらいなんだから。その理由はやっぱり…サーシャがブスなんだよな(笑)。横顔はまだマシなんだけど、正面から見るともうダメ。

もうちょっとクセの無い感じでチャーミングに造形してあげればもっと興行が伸びたかも知れないのに、サーシャのルックスが足を引っ張っちゃっている。例えるならそれは、実績はすごいんだけど顔がオヤジ過ぎて過小評価されている門田博光のような感じでさ、門田さんなんて日本歴代3位の本塁打記録を持っているのに4位の山本浩二や5位の清原和博よりも全く印象が薄くて、この映画もポテンシャルの割には『アナ雪』の100分の1も騒がれていないから、つまりは門田博光的映画だと言えるわけだ。そう考えるとやっぱり実写でもアニメでもヒロインの見てくれは大切だと改めて気付かされたね。

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