日本中がリヴァプール南野拓実のリーグ戦デビューはいつになるのかとヤキモキしているだろうが、そう焦る必要はない。クロップ監督は適度な緊張と緩和を孕んだデビューには最高の環境で南野をピッチに送り出してくれるはずだ。なぜならクロップほど日本人、いや日本を愛している外国人監督はいないからだ。
ドルトムント時代のクロップは暇があれば何かと口実をつけて香川真司にハグを行い、他チームであったシャルケの内田篤人に対しても試合後に健闘を称えるかに見せかけて上手くハグを仕掛けていた。
そして今、また自チームに日本人を引き込むことに成功したクロップは誰よりも南野をデリケートに扱い、11日にはトッテナム戦の終了後、必然性もなく「タキ」と呼び止め、お得意のハグを交わしている。
そして何よりもクロップの新日家ぶりを示すエピソードとして、私は南野の新天地デビューとなった5日のFAカップ3回戦のエヴァートン戦後における彼のコメントを挙げたい。
後半25分に交代した南野についてクロップは「彼は疲れていないようだったが、私たちが彼を知り尽くしておらず、彼を少し守ってあげたかったので、交代させることにした」と述べたのだ。
私はこのコメントを聞いた時に戦場であるフッボルという空間に「守ってあげたかった」という言葉はいかにも似つかわしくなく、その言葉をチョイスしたクロップの真意はどこにあるのかと、お馴染みのマニア・オブ・ビューで解析してみることにした。するとそこには南野に対するクロップの格別な配慮が隠されていたのだった。
「守ってあげたかった」。これを過去形ではなく現在形に戻してやると「守ってあげたい」。勘の良い諸君らは既にピンと来たことかと思うが、これはまさしくユーミンこと松任谷由実が1981年にリリースした名曲のタイトルそのものではないか。
どうやらクロップは日本の歌謡界にまで精通したコアな親日家で、そのユーミンの名曲をあえて文字ることで南野に母国の郷愁と温かみを込めた労いの言葉を送っていたのだ。何という優しさであろうか。
南野は欧州王者のクラブにいることよりも、こんなにも愛に溢れた監督の下でプレーできることを何よりの幸せとしなければならない。
次戦のマンチェスター・オブ・ユナイテッド戦ではそんな指揮官の愛情に報いるような、リーグデビュー戦での初ゴールを期待している。