Amazonプライム・ビデオで元を取るつもりが…
前回は編集者のあんちゃんの要望を聞き入れて新作の『ジョーカー』を見に行ったけど、今回はAmazonプライム・ビデオの年会費の元をしっかりと取んなきゃいけないんでその中からの旧作になる。ただそうは言いながらも実は年会費とは別にお金を払ってしまう羽目になっちゃったんだけどね。
あまり触手が伸びる作品が見当たらなくてさ、そう言えば公開された時に気になってたけど結局行けずじまいになっていたこの『ドント・ブリーズ』を思い出して見ようと検索してみたら、レンタル料がいるなんて表記されてやがるんだ。何だよ、オイラはプレミア会員様だよ。AVでも何でも無料にしやがれコノヤローとか思ったけど、まあ199円だったからそう悩むこともなかったし、結論から言えば外出することもなくポチッとするだけでこの出来の作品を200円未満で視聴できたのはかなりのお得だったね。
どうもオイラはこの手の密閉された空間で何かに追いかけられるというシチュエーションが大好きらしい。他に例示すれば『エイリアン』みたいな作品だけど、そこに加えて追いかけてくるエイリアン的な存在が盲目のヤバい老人なんていうから、これはもう見るしかないと思ったね(笑)。
暗い屋敷に盲目の達人をブレンドしたこの設定自体が秀逸過ぎるからさ、アイデア倒れにならず、せめて凡作くらいに収めてくれればと前回のジョーカーとは真逆なくらいハードルを下げて見たせいか、相当に楽しめたよ。
スマホへの銃撃が1発ではダメな理由
ストーリーとしては若い3人の強盗グループが大金を保有しているらしい老人宅へ侵入するも、その老人が五感の研ぎ澄まされた座頭市みたいなヤツだったという話。つまりこれはある種の東洋的な達人幻想に通じるものがあって、日本人のオイラがこの設定に惹かれた理由の一つでもあるかも知れない。
ただその達人ぶりがいい具合に抑制されているんだ。静寂の中で突然鳴ったスマホを老人がピンポイントで銃撃するシーンがあるんだけど、1発じゃなく2発ぐらい撃ったんだよね。これが1発でスマホを撃ち抜いちゃうとダメなんだ。それだといかにも漫画的になって興醒めしちゃうんだけど、複数撃つことで老人の達人性を本当に実在してそうなギリギリのラインに押し留めて、物語にある程度の信憑性を担保してる。まあ監督がそれを意図したかどうかはわかんないけどね。
で、いくら退役軍人で腕のいい老人と言えども盲人だから、健常者3人とガチでやり合うにはまだ少しパワーバランスが釣り合わない。そこで強盗グループ側のキャラクターの心理的な背景を加味し、それを巧みに利用することで戦力のバランス調整を図っている。
一応はこの強盗グループの女の子ロッキーが主人公で、彼女を強盗に駆り出す理由がDQNな母親から妹とカリフォルニアへ逃げるための資金稼ぎというそこまで切実じゃない動機となっていて、他の2人もその軽さは同様なんだ。ロッキーの恋人で粗暴なマネーはただの馬鹿だし、真面目なアレックスはロッキーに思いを寄せていて、彼女が心配な余りという色事で参加している。
そのアレックスはセキュリティーの仕事をしている父親の影響で法律にも詳しく、老人宅で銃を持参してきたマネーに対して「グッと刑罰が跳ね上がってしまう」と犯行からの離脱を口にする。つまり3人は今まで強盗というよりは軽い空き巣程度の認識で犯行を犯してきたことが窺えて、犯罪を犯す上での徹底した覚悟や暴力性を備えていないことがわかる。
だからマネーは老人に銃を向けて脅すんだけど、撃つ勇気がなくまごついている間に逆襲をくらい殺されちゃう。つまり相手は殺る気マンマンなのに、こっちにはその覚悟がなかったって言うね。その意識の差でもって盲人と健常者のパワーバランスにおける立ち位置を逆転させているわけで、これはよく描けていると思ったよ。
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スリラーのドラマ性は本質ではなく装置
こうした創作スリラーやホラーってのは特質上、物理的な進行では無理が出るもんだから内面での細かなディティールでの整合性でそれを巧く補っていかなきゃならないからね。ただこれだけじゃ主人公の方が倫理的にも法的にもダメなことをやらかしているから老人はただの正当防衛じゃねーかって思うんだけど、やっぱりそこにも老人が相対的に悪となるような仕掛けがされている。
それがまたこの老人の異常さを炙り出すようなものでいいんだ。娘を轢き殺しておきながら刑罰を免れた女性を監禁して、その腹でもう一度娘を生ませようとしているからね。しかも強姦じゃなくてスポイトで人工授精をするという軍人らしい妙な誠実さもあってさ。10年ほど前にアルゼンチン代表監督を務めていたマラドーナが記者陣に向かって「貴様らは俺のマ〇をしゃぶれ!」と放った直後に「女性の記者には失礼した」とあべこべな紳士ぶりを発揮したのに似てるよ(笑)。
そう考えればこの映画に出てくる人物は全員クズな人間で、プチ・アウトレイジ的な様相を呈している。だから批評の中には誰にも共感できないから楽しめないなんて声もあるらしいんだけど、これは個人的な嗜好によるだろうね。
オイラはやっぱり作り手の側の人間だからか知んないけど、そこまで劇中の人物との共感を求めていない。ただ物語内での登場人物の内面に論理性があるのかを重視して見ちゃうから、そこに善悪は物差しとはならないんだ。心情変化に一本の筋が通っていればそれで満足なんだよ。
だからロッキーたちの意識の軽さも若者的だし、その軽さが物語と矛盾なく相乗して絡んでいるから文句はない。もっと言えばこうしたスリラーやホラーのドラマ性は本質である必要はなく、物語の厚みを補強するためだけの装置であってもいいわけ。恋愛映画などとはまた主眼が違うからね。
日本だとスイカ割りゲームになる?
ただ思ったんだけど、この映画は日本じゃ撮れないね。だって障害のある老人が1人でこんな馬鹿デカい豪邸に住んでるわけないもん。これが米国じゃ障害者住宅なんて言うんだから、土地の広大さには圧倒されるよ。日本じゃやってもせいぜい15坪程度の2階建くらいになって、とても鬼ごっこめいたことはできない。いや、盲目というアイデアがあれば何とかなるかも知んないね。
武器も銃じゃ不自然だから日本刀とかにして…それだと鬼ごっこと言うよりは暴走した老人による恐怖のスイカ割りゲームになっちゃうか。強盗グループ同士で仲間割れが起きて「おじさん、もっと左です」とか言い合ったりなんかして、それはそれで面白そうだけど。
まあ話が逸れたけど、こういったホラーは非日常を扱っているわけだから、多少の無理な展開は出てくる。途中で老人がブレーカーを落として「俺が見ている世界を見せてやる」なんて言った台詞と、暗闇では盲人が健常者の立場になる皮肉な仕掛けには唸ったけど、ずっと画面が暗いままじゃ絵的には客を引けないからすぐに明かりの差し込む部屋に出たり、終盤では老人が屋敷を飛び出して遠くにいるロッキーをなぜか見つけ出したりなんかもする。それは犬の声や臭いを辿った結果なんて言われても、屋敷の中じゃ宣伝文句の割にそこまで超人的な耳や鼻はしていなかったもんね。
だから細かく見ていけばこの手の映画は腑に落ちない所は多々あるけど、そこは必要悪と言うか、スイカに種があるのと一緒で、わざわざ食べる時に種があるじゃねーかって文句言ってても仕方ないじゃない。だってスイカなんだから。そういった寛容な心持ちで見ることだよ。
脚本も監督が書いているらしいけど、アクションに関してはきっと自分が盲人になった気分で楽しみながら作ったような気がするね。どっかの屋敷にロケハンに行って、「この地下の棚は使えるな」なんて思いながら書いたんじゃない。ほぼ物語は屋敷の中だけだから、制限された空間で話やアクションを捻り出すってのは逆に楽しくてさ。「侵入してきた強盗犯を逃がさないためにはどうするか? するとまず窓が邪魔になるなぁ…」なんて考える。あの老人がロッキーたちを外に逃がさないように家中の窓に板を打ち付けたシーンは、海坊主が人間を海底に引き込むようなゾクゾクする戦慄があって実に良かったからね。
続編はある?
最後が何だか続編を匂わすような終わり方だったから調べてみたんだけど、その企画自体はあるらしいね。脚本も出来上がっていて後は撮るだけという段階だそうだけど、ただどうするんだろう。盲目の老人が屋敷で迎え撃つのがこの作品のミソなのに、さすがにロッキーが運悪くまた同じ老人の屋敷に侵入するってことはないでしょ。老人に「また会ったな」なんて言われて、目が見えてないもんだから「え…なんのことですか? 私はエイドリアンです」なんてなったら、もうギャグだからね。
まあそんな興味もあり、続編が公開されたらオイラも劇場まで足を運ぶ可能性は高いと思うよ。